嫌われるために生きていると言う子がいた。期待と落胆をさせるくらいなら、もっとはやく嫌われてしまえばいい。人が抱く負の感情を吐き出す理由になれたらいい。そう言って俯く、今にも泣き出しそうな横顔に、私は独り善がりなやさしさを見た。
私が慕う人は冬が好きで、煙草が好きだ。それ以外にも数えだしたらきりがないほど、私とは正反対のものを好んでいる。似ていないからおもしろいこともあるけれど、ふと途切れた会話の間に、途方もない距離を感じる。きっと、寒いせいだ。だから私は冬が好きではない。
自分が誰を想う気持ちは信じられるというのに、誰が自分を想ってくれる気持ちは信じられぬなど、あまりにかなしくありませんか。
冬になると、帰り道を歩いているときにどこからともなく漂ってくる夕飯の匂いのあたたかさが増すような気がします。それは私にとって他ならぬしあわせの匂いのひとつです。
相手の気持ちを考えると、相手の喜びも悲しみも徐々に胸の内へと流れ込んでくる。呑まれてしまわぬようにと振る舞えば、どうせ他人事なのだろうと侮蔑を含んだ笑みを寄越されてしまう。寄り添うということは、どうしてこんなに難しい。
私が君の言葉を知ることができないように、君もまた私の言葉を知ることができない。当然のことだけれど、忘れてしまいがちだからきっと相手の気持ちを考えることを疎かにしてしまうのでしょう。それでいて諦めにも似た言い訳を用いながら、諦めることができないままでいる。
降り出した雨に為す術もなく、掻き消された声は行き場をなくした。君は何処までもひとりで歩いて行ってしまうから、留まり続ける私はその手を取ることをも、その名を呼ぶこともできはしない。
その一方で、何でもない話ではあるけれど、ただ1人の人に聞いてほしいと思いながらそれが叶わないとき、心のどこかがぞわぞわと粟立つような感覚にとらわれてしまいます。
何でもないことを話したくなるような人が何人か思い浮かべられて、そのうち1人くらいに話すことができたなら、それだけで充分かもしれないなと考えることがあります。
考えたくないことばかりなものだから、考えても仕方のないことばかりを転がしている。例えば、私が君に対して君でなければならないと言えていたのならといった類のこと。
日々等しく、夜は静寂を伴って訪れる。季節によって長さが異なることや、寒暖の差があることを除けば、それはおそろしいほどに変わらぬものだ。そしてその変わらぬものの中に置かれた私は、日々変化してゆく自らの心持ちに動揺せずにはいられない。変わらぬことは安寧であり、非常に酷だと思う。
「君が無条件で幸福であることを願いながら、君が私の隣に居てくれたならどんなに好いだろうと考えずにはいられなかった。勿論、そんな旨い話があるはずもなかった。」
「ちいさな片想いを心の奥に押し込んだ。相手に気付かれてしまわぬように。自分が傷付くことなどないように。間違いだらけなのだから、間違いを重ねたところで大差ないだろうという考えが甘かった。私は恥ずべきほどの無知だった。」
息苦しくなってしまった。書くことすべてがまるで私の身に起きたことであるかのように認識されることが、息苦しくなってしまった。
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