Tomoru
@Tomoru0705劇団出身の母(要介護5)は令和5年9月9日に旅立ちました。まだ現実を捉えられていません。 生業は、描く事や書く事。 昨日は過去、明日は未来。 誰かの言葉が力になります。
雨女を返上、 小春日和の ご機嫌な天気の下 実家の片付けが済みました。 4tダンプ2台。 スタッフ5名。 てきぱきと作業が進み 慣れ親しんだ家具類への 感傷が湧く間も無く あっという間に 家の中の大物たちは 姿を消しました。 見えなくなっても 思いまでは消えない。 そう思っています #実家片付け
新しい年のカレンダーが届き始めた。 年末年始の知らせも入る。 季節のあれこれが、今年も規則正しく訪れる。 規則正しければ正しい程 一緒に居た人の不在が 風穴のようにポカンとする。 12月になれば更に慌ただしい日々が連なる。 見上げた月が 薄雲に覆われて 紙のように見える。
11月に入ったとたん カレンダーの薄さに 月日の流れる早さを 知る。 今年は仕事場に 年賀状終いの葉書が 沢山届いた。 「終う」という言葉の 潔さと寂寥が身を包む。 月末には、 実家の家具類が運び出される。 「終う」から始まるものが有ることに 口元と心が綻ぶ。 庭の朝顔がまだ咲いている。
昨晩、 ふと思い立って 母の暮らしていた家に 自転車で駆けた。 僅か3分の道のりを 夜風が押す。 鎮まりかえった室内は もう何の息遣いも無い。 母が過ごした夜の孤独が 伝わり、そっと部屋を出た。 雨上りの夜空に 大きな月が冴える。 月明かりが 私の後悔を 少しだけ慰めてくれた。
祭り囃子が聞こえてくる。 近くの神社から子供達の歓声が響き、りんご飴やイカ焼きの匂いが漂う。 境内に立つと、 子供の頃の自分に戻る。 迷子になっても 必ず見つけてくれた母の 姿は無く、 何処をどう探しても もう見つける事は叶わない。 近くの太鼓が 遠くに聴こえる。
母を送って 1年が経った。 そろそろと、 家の中の整理を始めたが 思い入れに埋もれ なかなか捗らない。 漸く知り合いの専門業者に依頼し、大きなものを片してもらう事にした。 母の生きて暮らしてきた足跡が 小さく薄くなって行く。 誰かの中でだけ その時のままの姿で残るのだろう。
まだまだ咲き誇る朝顔。 去年は11月まで 咲いていました。 朝顔が自撮りしたような写真。 種を取り続けて5年目。 眺める人の姿は 変わっても また次の夏に会いましょう。
顔の形は なかなか 造り変えられないけれど 表情は自分で作れる。 しかめっ面の人といると 気持ちが伝染する。 無垢な笑顔は 人を幸せにする。 辛い時でも、 無理矢理口角を上げていると、 なんとかなる。 過日、母の担当医が 言っていたのを 思い出す。 彼岸の中、 遺影に向かって 笑ってみる。
敬老の日の今日。 来客も落ち着き、漸くゆっくりできると腰掛けた時、 うちの8歳児が友人2人を伴ってピンポーン。 炎天下、行き場を探して辿り着いた様子。 まずは母にお線香をあげたのには、ほほぅとなりました。 小さな女子会に参加し、時を巻き戻した気分。 写真の母も笑顔に見えました。
9月9日。 母の1回忌。 重陽の節句で、桃の節句や端午の節句と並ぶ秋の節句だと知った。 菊の花を愛で、季節の産物を味わい、邪気を払い、無病息災長寿を願う日。 花が好きで、みんなで食べる事を楽しみにしていた母は、この日を選んだのだろうか。 舞台を終えた母に 沢山の花が届けられた。
日記など 続いたためしの無い 三日坊主が 何を思ったか 一昨年、 5年日記を購入した。 1頁に5段。 8月の2段目まで記されていた母との日々は、9月で途切れる。 振り返る事の容易な日記に埋められた日々は、 その時の自分に いつでも再会出来る。 8月の3段目が もうすぐ埋まる。
京都に棲む友人から 大文字の画像が届いた。 学生の頃は 毎年のように四人揃って眺めた。 この6月に逝った幼馴染みが一番楽しみにしていた。 「また、みんなで見たいなあ」去年はしきりに呟いていた。 1コマ1コマの画像に 溢れる想いが滲む。 今年もきっと何処から眺めているだろう。
初盆に 小さな届け物が続く。 こんな可愛い精霊馬に 母は乗れるかな。 手描きの絵ろうそくは 隣の女の子から。 すました顔の遺影が 花や可愛いものに囲まれて、 今日は微笑んでいるように見える。 温もりを持たない笑顔が 一年の時を知らせる。 夏の闇に 迎える小さな火を灯そう。
いただきます。 ごちそうさま。 小さな子供達のように 母はひとりの食事の時にでも、 必ず手を合わせて そう言っていた。 食べること 食べられることへの 思いだったのだろう。 ゼリー食だけになっても その習慣は 変わらなかった。 いただきます。 合わせた手の細さばかりを思い出す。
暑さが天辺を 目指しているようだ。 毎日が、母に向けて過ぎていた去年の夏は ひたすら駆け ひたすら思っていた。 輪郭を極めた青空と 入道雲、 陽に向かい凛と立つ向日葵。 そんな夏の風景を 今年の夏は懐かしさに似た思いで眺める。 母の好んだ南部鉄の風鈴が軒先で風に揺れ 囁くような音がする。
夢は ひとときの喜びを与える。 先月亡くなった幼馴染みが、初めて夢に現れた。 「今日は2025年の1月4日よね」 彼女の声は鮮明で 夢と現が交差した。 そして直ぐに遠ざかった。 彼女の好きだった赤いコートが目に残る。 夢の話に添い 1月4日に、みんなで集まる事になった。 何が起こるのだろうか。
今日の七夕は 数年ぶりの快晴で 今晩はきっと 再会を果たせるはず。 彼方へ行った人達とも この七夕のように 1年に一度で良いから 会えたら、 どんなにか嬉しいだろう。 その時は 何を話そうか。 何を聞こうか。 ただ向かい合っているだけで、それでいい。
子供の頃 母と出掛ける時には 必ず手を繋いでいた。 晩年の 母のその薄くか細い手を 近くで添えていたのは 私では無く 看護士さんや介護士さんだった。 母の右手の温もりを 思い出そうとして 自分の左手を見つめる。 雨の日は傘を持つ手と 母の手に塞がる両手が 今は懐かしい。
美しいものを見ると 寿命が延びる という。 美しいものを うつくしいと 思える時は幸せで 一緒に思える人が 傍らにいるだけで なお幸せになる。 母も幼馴染みも 花が好きだった。 咲き誇る紫陽花を 去った日の眼差しが その美しさを語る。 「きれいやねぇ」 もう一度その声を聞きたい。
先日亡くなった幼馴染みは医師から余命を告げられた翌日、 車を買い換えた。 そして 納車されたその日に ミッドナイトブルーの新車で我が家に現れた。 緩和病棟に移る日には 新しい靴を買った。 彼女は明日の自分を 信じていたのだろう。 彼女から 譲り受けたその靴を まだ履けないでいる。
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